がん医療でのライフマップ活用を提案

 さわやか倶楽部が運営する介護施設では、九州大学、北九州産業学術支援機構(FAIS)との産学官連携で生まれたツール「ライフマップ」を活用し、入居者様や利用者様の過去の人生を振り返りながら、施設での生きがい作りに取り組んでいます。

 3月6日(土)、九州内の10大学が参画するがん専門医療人材養成プロジェクト『新ニーズに対応する九州がんプロ養成プラン』主催の市民公開講座が、YouTubeを使ったライブ配信で開催されました。「デザインに何ができるか?」と題した講演の中で、ライフマップの開発に携わった九州大学大学院・平井康之教授と「さわやかレークサイド中の原」でケアマネージャーを務める小林さおりさんが、がん医療におけるライフマップの活用の提案を行いました。


さわやかレークサイド中の原(福岡県北九州市)
ケアマネージャー 小林 さおり さん

 介護施設では、本人様の生活の意向を聞き取りながら体の機能などを調査し、その方に合ったケアプランを作成して介護サービスを提供します。生活の意向を聞き取る際は、対面でこれからの生き方について面談を行いますが、認知症や持病をお持ちの方、車椅子で生活されている方、80歳や90歳過ぎている方などに対して、未来に向けた前向きな思いや本当の気持ちを引き出すことは非常に難しく、介護の現場でも緩和ケアに求められているような「その方らしく過ごす」ために大切である聞き取りが十分行えていない現状がありました。

 平井教授と開発したライフマップを用いて高齢者の方と一緒に「残りの人生をどう生きるか」を考えデザインしていくことで、その方の表面に現れていないこと、思いや本心を聞き取り、生きる力になるヒントを見つけられ、多くの高齢者の生活が変わりました。そうした介護の現場での体験が、がん患者様の抱える問題解決にも通じることがあるのではと思い、お話しさせて頂きました。

 ライフマップで本人様の表面に現れていない思いや本心を知ることができると、これからの生活に提供できることの幅が広がります。病気であるとか高齢であることを理由にして、生きる力になる思いを私達が奪うことがないよう「それは○○だからできない」ではなく「どうやったらできるのか」を考えることが必要です。残りの時間をどのように生きていきたいのかを知り、どのようにサポートすれば少しでも満足した時間を提供できるのかを考えることは、医療分野においても役に立つ部分があると感じています。

 講演の中で事例に挙げたお2人は、余命が短いと分かっていた方でした。ライフマップを使った聞き取りによって、どうやったらできるのかを考えて実践したことで、お1人は他界された奥様と過ごしたような庭を施設に作り、日常の生活の中で奥様を感じることができました。もう1人の方は施設内でスナックのママをされ、希望であった「もういちど輝きたい」ことを1年半も続けることができました。ご家族様にとっても、最後まで本人様らしく生きたという思い出を残すことができれば、心の平穏になるのではないかと思います。

 高齢者介護やがん医療に携わる中で、お一人おひとりに残された時間は違いますが、ライフマップでその方の本心を知ることができれば、その人らしく終焉を迎えることができるお手伝いが、私達にできるのではないかと思っています。