思い出のカレー作り

ライフマップで生きがい発見!! story22
さわやかいずみ館(福岡県朝倉市)

 花田終(おわり)様は、1926(大正15)年3月20日生まれの95歳。いずみ館に入居される10年ほど前にご主人様に他界されてから一人暮らしとなり、娘様が週3~4回様子を見に行かれていたようです。2018年9月に病気で入院となり、転院先の病院でリハビリを頑張られましたが、自宅へ帰ることへの不安があり、その年の11月にさわやかいずみ館へ入居されました。

 三井郡大城村に9人兄弟の次女としてお生まれになった花田様は、三井高等女学校を卒業されました。戦時中ということもあり、小学校の代用教員として教壇に立ちながら、実家の農業の手伝いもされていたそうです。教員として1年が経った頃、実家で農業をしていたお母様が急逝され、20歳の終様を母代わりとした一家の生活が始まります。和裁が得意だった花田様は、田畑を作る傍ら和裁の注文を受け、必死に家族の生活を支えてこられました。お父様も、お母様の後を追うように3年後に他界され、名実ともに一家を支えて来られました。

 その当時、花田様が家族によく作った料理が「野菜カレー」だったそうです。当時はあまり物がなく、畑でとれた野菜でカレーを作っていたそうですが、それでも皆が「美味しい、美味しい」と、食べてくれたことが嬉しかったと思い出を語ってくださいました。

 その後31歳の時に、教員だったご主人様と結婚され、女の子1人、男の子1人を授かります。子育てをしながら農業も続けられていた花田様にご主人様がコンバインを買ってくれたことを、嬉しそうにお話してくださいました。お1人で家の田畑や料理を作っておられた花田様にとって、コンバインはまさに救いの神だったそうです。また、その当時では珍しく車の免許を持っておられ、とても活動的な方だったようです。畑仕事は80歳頃までされていたとのことでした。

花田様のライフマップ

 ライフマップの聞き取りの中でやってみたいことをお聞きすると「野菜作り」の希望が1番に上がってきました。自分の作った野菜を近所の方たちにも配られていて、家族や近所の方の喜ぶ顔がやりがいにつながっていたそうです。そこで、昔ご家族様のために作っていたカレーを花田様が育てた野菜で作ってみてはどうか、さらにご家族様とそのカレーを食べたらもっと美味しいのでは、という話になり、花田様との野菜作りが始まりました。

 花田様には野菜作りの先生になっていただき、野菜作り未経験の職員に指導していただきました。2019年の冬にジャガイモと玉ねぎの作付けを行い、7月初旬の収穫を満面の笑みで喜び合いました。しかし残念ながら、7月21日に花田様が入院された為、この年のカレー作りは断念。幸いお元気になられていずみ館に帰って来られたので、2020年もジャガイモと玉ねぎは作付けしたのですが、今度はコロナ禍の影響でご家族様の面会が難しくなり、花田様自身の体調も良い状態とは言えなかったため、短い時間でできる包丁さばきの練習にその年の野菜は使わせていただきました。今年もコロナ禍の中、娘様との食事は難しいですが、すでにジャガイモと玉ねぎを収穫しています。今年こそは、カレーを作ろうと意気込んでいるところです。

 野菜作り以外にしてみたいことを伺うと、以前は書道や読書も楽しまれていたとのことでした。字がとてもお上手で、先日も七夕の短冊に綺麗な字を披露していただきました。読書は「何でも読みますけど、時代物よりも現代物の方が読みますかね」と話されていたので、なるべくそれに沿ったものをと、毎月図書館から借りてきて読んでいただいています。新聞も時間をかけて毎日熱心に読んでおられます。1日1日をとても丁寧に過ごしておられるのが伺えます。

 コロナ禍で、制限もたくさんありますが、これからも花田様に寄り添い、花田様らしい毎日を過ごせるよう職員全員でお手伝いさせていただきます。ライフマップで他の入居者様にもお話を伺い、寄り添い、一緒に考え、それぞれの幸せの形を一つでも実現できるように努めていきます。

(山本 純司)

※写真・文章は、入居者様ご本人およびご家族様の許可を得て掲載しています。