施設が我が家に変わるまで

ライフマップで生きがい発見!! story7
さわやか海響館(福岡県北九州市)

[第5回事例発表大会 優秀賞受賞]

 昭和6年、8人兄妹の末っ子として生まれたよしこ様は、現在88歳。お寺の娘として生まれ、23歳の時にお見合い結婚して、お寺の住職だったご主人を「坊守」として長年支えてこられました。そのご主人が認知症を発症し、海響館に入居されてから、自らも認知症だったよしこ様のご家族に対する暴言が激しくなり、毎日ケンカが絶えなくなりました。時には「お父さんを帰せ!」とご家族に詰め寄ることもあり、同居していた長男様は倒れて緊急入院する事態となりました。家庭崩壊の状況の中、ご家族様がよしこ様についても海響館への入居を希望され、ご家族と酷いケンカをしてご主人の面会に来られた時に、そのまま入居されることとなりました。

 入居された当初は帰宅願望が強く、徘徊行為もありました。ご主人の車椅子を押しながら「一緒に帰りましょう」と毎日繰り返し誘うので、今まで落ち着いていたご主人にも帰宅願望が現れ、不穏状態が多く見られるようになりました。また、ご主人が不穏の時はよしこ様に対しての暴言が多く、よしこ様は夫を怖がって居室にこもることもありました。顔つきも険しくなっていたよしこ様に職員がずっと付きっきりになり、職員も疲れ果ててしまいました。

 そこで、状況を改善するためのアプローチとして「コミュニケーションの強化」をテーマに掲げ、よしこ様の話に時間をかけて親身になって耳を傾けることで、徐々に信頼関係を築いていきました。その取り組みの一環で、ライフマップを用いてよしこ様の過去の生い立ちに触れながら、趣味や得意だったこと、これからやってみたいことなどを教えていただきました。

 すると、裁縫(和裁)やお花の手入れが好きだったことが引き出され、職員のほつれたエプロンを修繕したり、施設で使う雑巾を縫ってくださるようになりました。施設の仕事を手伝いながら、自分の役割を持っていただいたことで、職員とのコミュニケーションが取れるようになり、よしこ様にとって大好きで信頼できる職員が増えていくにつれ、何気ない会話の口調や表情が優しくなっていきました。また、施設で定期的に開催しているフラワーアレンジメントにも積極的に参加されるようになり、日々の生活の中で笑顔が多く見られるようになりました。

 現在はすっかり施設での生活に慣れ、ご自身で楽しみを見つけられるようになっています。友人が増え、夫との関係も良好になり、今の生活が楽しいと言われています。12月には施設の職員や他の入居者様と一緒に、別府のハートピア明礬への温泉旅行に行き、ものすごく喜ばれていました。当初の不穏が嘘のようで、入居当初は面会を拒まれていたご家族様とのわだかまりも解け、ご家族で外食に行かれるようにもなりました。

 これからもライフマップを活用し、入居者様の不安や要望に寄り添うことで、施設生活に楽しさと生きがいを持って過ごしていただけるように支援してまいります。

(さわやか海響館 副施設長・齋藤 晃)

※写真・文章は、入居者様ご本人およびご家族様の許可を得て掲載しています。