あきらめた夢を叶えよう

ライフマップで生きがい発見!! story8
さわやかあおい館(静岡県静岡市)

[第5回事例発表大会 最優秀賞受賞]

 富士市出身のさほこ様は現在87歳。5人姉弟の3番目、二女として生まれました。地元の中学を卒業後は事務員を経て美容師になり、自分の店を構える程になりました。28歳の時に2歳年上のご主人と結婚し、ご主人が47歳で亡くなられた後は長年一人暮らしをしていましたが、82歳の時にシルバーカーで転倒し右大腿骨を骨折。その後、身体機能が低下して独居が困難となり、数少ない親類を頼りに静岡市に来て、あおい館に入居されています。

 入居当初は活気がなく、職員が話しかけてもあきらめの言葉が多かったさほこ様。生きがいの感じられる毎日を送っていただくために、私たちに何ができるのだろう?と職員間で話し合い、酒井ケアマネを発起人にして、内田機能訓練指導員がサポートし、『ライフマップ』の活用によって介入のきっかけを探ってみることにしました。

さほこ様のライフマップ

 日頃は口数少ないさほこ様も、ライフマップの聴取時には、よくお話をしてくださり、過去の大切な思い出話や、今後経験したいことなどを聞きとりました。そして、私たちが想像していた以上に、活発で活動的な人生を歩んで来られていたことがわかりました。登山の話になった途端、即座に「富士山へ行きたい」と、今まで言われなかった希望を口にします。しかしすぐに「だけどこの身体、車椅子じゃ無理だよね」と消沈の声。富士市出身ということで、富士山とは深く関わりを持って生活をしてきましたが、静岡市内へ移り住んだことで馴染み深い景色が遠く離れてしまい「寂しい」とも口にされていました。「出来ない」「無理だよ」と、後ろ向きの発言をされる様子を見て、さほこ様が抱えているのは孤独から来る寂しさではなく、月日を経るごとに大切な「環境」「自由」「楽しい思い出」が奪われていく寂しさではないだろうか、という考察に至りました。そして、元気でいれば「願いは叶う」ことを実現したいと職員の意欲が湧き、あきらめている「富士山」に行けるところまで行ってみよう!と目標を設定しました。

 車いすでは、富士山の5合目が限界ですのでそこを目標地に決め、樹海の森を潜り抜け、実際に5合目まで到達しました。いつもとは違って間近に見える富士山の眺めをたっぷりと堪能してから、5合目にあるレストハウスを物色したり、冨士山小御嶽神社を参拝したりしました。さほこ様も満面の笑顔で記念写真を撮りました。天候にも恵まれ最高の富士山日和で、とても楽しい一日になりました。キーパーソンの姪御さんからは「とても素晴らしいサービスを提供してくださり、自分のことのように嬉しくなりました。このような取り組みをされる施設は家族としてもありがたい」とのお言葉を頂戴しました。

 今回の「ライフマップを活用し、夢を叶える」というプランニングは、さほこ様に劇的な好影響を与えるものではありません。事例としても意義のあるものかは自信がありません。しかし、さほこ様と私たちで楽しい思い出を共有できたことは確かです。わずかですが、変化もありました。それは、さほこ様と私たち職員の間に合言葉ができたのです。

 『次は、どこに行こう?』

 この小さな出来事が、さほこ様の施設生活にわずかでも光になればと願っています。ライフマップを活用し、さらに多くの利用者様と「楽しい思い出」を積み上げていきたいと思います

(さわやかあおい館 施設長・梶原和典)

※写真・文章は、入居者様ご本人およびご家族様の許可を得て掲載しています。