100歳という日常を支える

ライフマップで生きがい発見!! story31
さわやか海響館(福岡県北九州市)

 さわやか海響館では『ライフマップ』を活用して、様々な入居者様の生きがいをサポートしています。

 今回ご紹介させていただくのは、99歳女性のM様です。

 M様は北九州市若松区で生まれ、女学校を卒業した後、地元で石炭関連の事務の仕事をされていました。当時は石炭を運ぶ船乗りたちが洞海湾に来ては、明治町や大正市場で買い物をされ、とても賑わっていたそうです。その後、ご両親と旦那様、二人の娘様と一緒に暮らしていましたが、旦那様は早くに亡くなられてしまいました。

 ご両親も他界されてからは、お一人での生活を続けていたものの、高齢になるにつれ、薬を飲み忘れるなどの認知力の低下が見られるようになりました。娘様も遠方にお住まいで支援が難しいことから、今年の7月にさわやか海響館へ入居することが決まりました。入居後はスタッフと昔話をしたり、屋上庭園で庭いじりをしたり、自身で廊下を歩行訓練する様子も見られ、少しずつ施設での生活に慣れていっているようでした。

 ところが8月に入り、施設内での新型コロナウイルス感染症が広がり、M様も陽性となってしまいました。重症化することはなかったものの、居室での隔離対応が必要だったために、一日の活動量が減ってしまい「少し足が弱っているね」とご本人様も心配され、今後の生活に少し不安感を感じられている様子でした。

 そこで施設でのコロナ感染が落ち着いた9月に、担当のケアマネージャーはM様の想いを見える化してスタッフ間で共有するため、M様にヒアリングを行い、ライフマップを作成することにしました。

M様のライフマップ

 今回、M様がこれまで歩んできた人生、現在の状況、これからの人生への想い、そのすべてを一つのシートにまとめて分かったことがあります。

「健康に年を重ね長生きできることの幸福」「100歳という節目を迎える素晴らしさ」など周りの人は綺麗な言葉でその人の人生を飾ろうとします。しかしM様に「100歳を迎えられるのはどのような気持ちですか?」と尋ねたとき、その回答は至ってシンプルなものでした。

『何も変わりません。私にとっては特別なことではなく、ただの日常です』

 その時、この99年間で本当に色々なことがあったのだろうなと、ハッとさせられました。目の前にいる入居者様が感じ、抱えているものは一言では表現できない深みと重みがあると感じました。

 10月に入り、スタッフが外出にお連れした際には、洞海湾や若戸大橋などの慣れ親しんだ景色を眺め「昔は今より水嵩も低くて汚かったよ」「橋は一度だけ歩いて渡ったことがあったね」と思い出話に花を咲かせていました。また、ご親族様が来館された際はとても嬉しそうで、いつまでもお話されたい様子でした。

 私たちが「介護」を行っていく上で大切なことは、何か特別な日々を作ることではなく、その方の人生を知り、その方の声に耳を傾け、その方が大切にしてきた日常を傍で支えていくことだと、ライフマップを通じて改めて学ばせていただきました。この素敵な笑顔がいつまでも続いていくように、今後も海響館スタッフ一同協力して頑張ってまいります!
(副施設長・宇津巻 進)

※写真を撮るときだけマスクを外しております。