スリッパ姿の訪問者

ライフマップで生きがい発見!! story32
さわやか鳴水館(福岡県北九州市)

 2022年11月21日の18時過ぎ。私たちの施設の玄関に一台のタクシーが停まり、バッグを1つだけ持った一人の男性が降りてこられました。長田様と名乗るその男性は「生活困窮者を泊めてくれる施設があると聞いて、黒崎駅からタクシーで来ました」と言われます。足元を見るとビジネスホテルの名前が入った薄手のスリッパを履いており、防寒も不充分な恰好でした。

 荷物を一緒に確認しながら話を伺っていくと、ホームレス自立支援センターや小倉南区の地域包括支援センターの支援があることがわかりました。18時30分を過ぎていましたが、自立支援センターや地域包括支援センターに連絡をすると「要支援2」の要介護認定を持っていることがわかり、近隣にある無料低額宿泊所に行く予定だったのだろうと推測されました。このやり取りを行う中で警察署に相談することも考えましたが、翌日からの生活は途方に暮れることが容易に想像できる状況でした。奥エリアマネジャーにも相談し、長田様ご本人の同意を得たこともあり、この夜は施設に宿泊していただくことになりました。

 宿泊の準備を行う間にも「この数日は米粒を食べていない」「自宅はゴミ屋敷で帰りたくない」と言われます。ご自宅の電気・ガス・水道は長い期間停まった状態とのことでした。今後、さわやか鳴水館に住みたい気持ちがあれば、朝になってから関係者と調整を図ることを長田様に伝えると「そうしたい」と言われたため、入居の方向で話を進めることになりました。夕食の後には「野宿をしたり、ご飯を食べられない時もあった。寝るところと食べることが安心できるのなら、ここを新しい生活の場所として生きていきたい」と言われました。

 翌朝、長田様の様子を伺うと「ぐっすり眠れた。食事も美味しかった」と言われていました。介護保険証の再交付の手続きで地域包括支援センターを訪問した際には「慈悲深い対応をしていただいて、本当によかったです」と言われました。12月に入り、徐々に新しい生活リズムにも慣れてこられたので、長田様のライフマップを作成することにしました。

長田様のライフマップ

 入居決定時は「寝るところと食べることが安心できるなら」とだけ言われていましたが、今後の生活についてお話をする中で「ご飯が楽しみ」「活字が好き」「お金を貯めてテレビを買おうかな?」と施設での具体的な生活への希望が見えてきました。また過去の話を伺う場面では「色々あったんよ」とよく言われていました。ライフマップに書ききれないほど多くの過去がありました。時に人に裏切られ、耐え難いような人生を「色々あったんよ」という一言で肯定されているような気がします。

 私たちは多くの人生の先輩と出会い、そしていつか別れる時がやってきます。そんな先輩方に対して「ライフマップ」というツールを通して人生の物語を聞くことで、もしかしたら今まで誰にも言わずにいたかもしれない思いや過去を伺い知ることができます。長田様の入居とライフマップの作成を通して感じることは、さわやか倶楽部が担う社会的使命と責任。そして私自身がその実現のために行動することで、入居者様にとって明るい未来のサポーターでありたいということです。

 ライフマップ作成直後から、2階にある「さわやか図書館」に職員と一緒に本を借りにくる長田様の姿があります。これからもそんな長田様に寄り添い、共に歩いていきたいと思います。
(ケアマネジャー・梶原 加代子)