日常の流れゆく時間を大切に

ライフマップで生きがい発見!! story11
さわやかすずめのみや【栃木県宇都宮市】

 廣子様は2019年7月3日にご入居、10か月が経ちました。昭和26年生まれで、まだ60歳代です。入居されたとき、入居者様の中で一番若かったこともあり、「これから長いお付き合いになるな」と嬉しくなったことを覚えています。

 廣子様は、現役で看護師をされていた2016年7月に脳梗塞で倒れました。右腕に麻痺があり右手が使えません。現在は左手でほとんどの身の回りのことをされています。杖があれば歩くこともできます。しかし言葉が少し不自由です。これからの人生、私たちは廣子様に何をさせていただくことができるのかを考えていました。

 その時、2階フロアの有志で自然発生的に合唱サークルが始まりました。入居されて間もない廣子様でしたが、積極的に合唱サークルに参加されました。このサークルは入居者様のご家族の指導も頂けることとなり、『さわやかコーラスなでしこ』と命名され、本格的な合唱サークルとなっていきます。

 そして晴れの舞台、2019年8月に開催した施設の夏祭りで、入居者様、ご家族の皆様に披露させていただきました。当日は、地元新聞社「下野新聞」からの取材もあり、新聞に掲載されました。

 施設生活を楽しんでいただいているように見える廣子様でしたが、少し考えさせられる部分もありました。

 廣子様にもっと楽しんで頂くため、2019年7月にはウナギの外食レクにお誘いしましたが、「ウナギが嫌い」と言われ不参加。10月に入って寿司割烹にお寿司を食べに行きましょうとお誘いしましたが、こちらも生ものは苦手とのことで不参加でした。11月には鹿沼市のまちの駅に「新そばを食べに行きませんか?」とお誘いしましたが、お誘いする少し前から頭痛があるとのことで結局不参加となりました。  

 外出は嫌いなのだろうか?

 そんな時、宇都宮市内で11月に写真家の個展が開かれることを知りました。

 のちに確認すると妹様から「(廣子様は)大勢で外出することが、実はあまりお好きではないはず」とお話がありましたが、何となく感ずるところがあったため、

「著名な写真家・加藤真弓さんの個展『写し人』が開催されるそうですがいかがですか」

とお誘いしてみました。すると、二つ返事で「行きたい」と頷いてくださいました。

 当日は廣子様と仲の良い入居者様4人で写真展を見学し、充実した時間を過ごしました。帰りにはカフェに寄って、みんなでケーキと紅茶を頂き、まったり“女子会”。楽しいひと時を過ごされていました。

『今の生活楽しんでいただけているかな?』

 2020年5月には、もっと廣子様のことを知るために『ライフマップ』を作成し、人生を一緒に振り返らせていただきました。

廣子様のライフマップ

 廣子様は大学を卒業後、旅行会社に就職。仕事の関係もあり、ご友人とたくさん海外旅行に行かれたそうです。読書と音楽が好きで、三味線を弾いて唄われていたそうで、年に2回位着物姿で演奏会にも参加されたそうです。コーラスで皆さんと通じ合うことができる様子が素敵なのは、昔の輝きを取り戻されているのだと思いました。もちろんコーラスはこれからも続けていきたいと頷かれました。

 今回の『ライフマップ』では、廣子様のもうひとつの楽しみを発見しました。それは「妹様の双子のお孫さんの成長を見ること」です。

 妹様のお孫さんは、男の子と女の子で2歳になるそうです。妹様は、ご夫婦で月に1~2回廣子様を外出に誘ってくださいます。廣子様はその外出の際に、ショッピングモールで服を見たり、書店で本を購入します。そのあとは、妹様の自宅に行ってお昼を食べ、携帯で送られてくる妹様のお孫さんの動画を「かわいいわね。大きくなったね」と言って見るのがとても楽しみなのだそうです。廣子様は、姪っ子さんがそのお子様たちを連れて妹様のもとに帰省なさるのを、心待ちにしているとのことでした。

 廣子様は天気が良い日に、施設の敷地内を散歩されます。その際、廣子様が他の入居者様とベンチに腰を掛けて日向ぼっこをしている姿をよく見かけます。ライフマップとこれまで一緒に過ごさせていただいた時間で、今は廣子様が多くを語らなくても気持ちは通じているように感じる一方で、語られないからこそ私たちも廣子様を知りたいと心に寄り添えるような気がします。

 今回の『ライフマップ』作成を通じて、生きがいは“日常の何気ない時間の流れの中にこそある”と感じました。私たちはこれからも他愛のない日常の一つ一つを大切にして、入居者様それぞれの毎日が、より穏やかに過ごせるようにお手伝いしていきたいと思います。

(大木 秀子 )

2019年の夏祭りの様子

※写真・文章は、入居者様ご本人およびご家族様の許可を得て掲載しています。