変化のきっかけは趣味の発見と「お手伝い」

ライフマップで生きがい発見!! story23
さわやかレークサイド中の原(福岡県北九州市)

 現在81歳のU様は、認知機能の低下から在宅生活が困難になり、3年前に入居されました。入居当初はほぼ一日中帰宅願望を訴え、居室内ではテレビもつけずただ椅子に座って過ごすという一日でした。「今日帰るから」という気持ちがあることで入浴や髭剃り、着替えなどの対応にも苦慮していました。そのような状況が長く続くことはU様にとっても職員にとってもストレスになりますので、日々の生活を変えるためにも早々にライフマップを使ってU様から様々な思いを伺いました。

U様のライフマップ

 イラストのカードをお見せすると「あ~これね!」と1枚見せるごとに話が止まらず、奥様から伺っていた以上の趣味が出てきました。「富貴蘭」という珍しい植物を育てていたことを一番熱心に語られましたので、園芸をケアプランに入れてみることになりました。「130個くらい作っていました。古典園芸やもんね」と詳しく語る様子もあり、話しているだけで楽しそうな表情でした。施設で新しく購入した植物ではなく、自分が育ててきた富貴蘭そのものでないと喜びにはならないと感じたので、奥様にお願いして現在も自宅にある富貴蘭を持参していただきました。

 持参された当日は「こんなもの持ってきてどうするんだ。明日帰るんだから持って帰ってくれ」と言われましたが、別フロアに移動させようとすると「ちょっと待って。ちょっと眺めよう」とやはり大切な富貴蘭だからこその行動が起こりました。それから徐々に関わりが作れるようになり植木が好きな入居者様に見てもらいながらU様の周りに人の輪ができるようになりました。奥様が望まれた「植木のことで友人ができるように」という目標達成ができました。

 U様にはもう一つ、毎年参加されていたという100キロウォークという生きがいがあり、ライフマップの作成時には「我が人生イコールくらいのもの!!」と言われていました。少しでもそれに近い支援ができるよう、運動として「活動の楽しみ」を目標にしてみました。優しいU様は「手伝ってください」という言葉に弱いんです。行事の際の椅子やテーブル運びのお願いをすると、快くお手伝いしてくださいました。レクのお誘いには応じないU様に動いていただく支援は大変な労力が必要でしたが、お手伝いがあるからという声かけなら気持ちよく動いてくださり、朝礼にも参加されるようになりました。U様のお手伝いによって準備の職員1名は別の仕事ができるので、今ではなくてはならない存在になっています。

 園芸レクやお手伝いがない時は、相変わらず居室でじっと過ごされており、機能低下が心配されていましたので、デイサービスのレクからヒントを得て、365歩のマーチの音楽をかけながら歩行を促してみたところ、見事に歩き出しました。U様につられて他の数名も廊下を歩くようになり、今では定着した皆様の自主運動になりました。職員の援助は16時にCDのスタートボタンを押し皆様を促すだけです。U様のお陰で多くの方の歩く楽しみがあるフロアに変わりました。

 当初一番の問題であった帰宅願望ですが、今では「私今日泊り?」「そうですよ。お食事も用意してますよ」「あ~良かった」という職員とのやり取りに変わり、心の穏やかさが感じられるようになりました。手伝いの中には転倒や怪我をするリスクもありますが、それを「本人が喜んでするのであれば何でもさせて」と全て許可してくださるご家族様がいらっしゃいます。そのお陰で担当職員は思い切って色々な提案をしています。ゴミ出しまで依頼しているのには驚きましたが、カートを押したり、重いゴミをダストボックスに入れたりすることも、職員とおしゃべりしながら楽しそうにされているのは何より嬉しいことです。

 今後もライフマップを使い、お一人おひとりが何を思い、何が生きがいとなるのか、そして自ら動くようになり、なおかつ職員もその援助が楽であることでずっと続けていけるサービスを提供させていただきたいと思います。

(小林さおり)

※写真・文章は、入居者様ご本人およびご家族様の許可を得て掲載しています。